「自分の提案、本当にこれで大丈夫か?」
そう思ったとき、壁打ち相手になってくれるAIを1人ではなく、複数の役割で一斉に動かせないか。そんな発想から作り始めました。
きっかけは2つ:提案のブラッシュアップと、agent機能への好奇心
動機は正直にいうと2つありました。
ひとつは実用的な理由です。何かしらの提案をまとめるとき、自分ひとりで考えているとどうしても視点が偏ります。財務的に詰められたら?組織への影響は?技術的に実現できるのか?そういった多角的な問いを、提案を持ち込む前に先にAIにぶつけておきたかったのです。いわば、人間に見せる前の”AI役員レビュー” です。
もうひとつは純粋な技術的好奇心です。Claude Codeにはagent機能があり、AIが自律的にタスクを実行できます。「だったらAI同士を会話させることもできるんじゃないか」と思い、試してみたくなりました。
💡 AI同士が議論する仕組みはagent機能ならではの使い方といえます。正確には「Claude Codeがオーケストレーターとして複数のAIエージェントを順番に呼び出し、互いの発言を文脈として渡しながら対話を成立させる」構造です。各エージェントは他の役員の意見を読んだうえで自分の立場から返答するため、単なる一問一答ではなく、ちゃんと”議論”になります。
Claude Codeのサブスクリプションプランを使って、CFO・CHRO・CTO・事業責任者の4役員をAIエージェントとして実装し、経営議題について実際に議論させるシステムを作りました。
やったこと:4人のAI役員が議論する仕組み
システムの構造はシンプルです。ターミナルで python main.py を実行すると、まず議題を聞かれます。
🏢 AI 経営会議シミュレーション
【議題を入力してください】
議題 > Claude Codeの全社投入の是非
議題と背景情報(予算規模、競合状況など)を入力すると、4人のAI役員が順番に意見を述べ始めます。
Round 1(初期意見)の例:
👔 CFO 田中 誠
年間ライセンス費用9,000万円に対し、エンジニア200名の生産性が1.5倍向上するなら人件費換算で約3億円の効果が見込める。ROIは3倍超であり、財務的には投資対象として検討に値する。ただし、効果の定量測定の仕組みを先に設計することを条件としたい。
👥 CHRO 鈴木 恵
エンジニアのスキル劣化を最も懸念している。AIへの依存が深まるほど、人材の市場価値と組織のレジリエンスが低下するリスクがある。段階的な導入と、ツールに頼らない基礎力の担保が前提条件だ。
💻 CTO 山田 拓
ソースコードのAnthropicサーバーへの送信が最大の懸念。エンタープライズプランの利用とデータ処理規約の確認が必須。既存のGitHub Copilotとの役割分担も整理が必要で、いきなり全社展開は技術的負債を生む可能性がある。
📈 事業責任者 佐藤 あゆみ
競合3社がすでに全社導入済みで、採用市場でも「AIツール活用」が要件に入り始めている。機会損失の方が怖い。まずエンジニアチームで素早く試して結果を出すべきだ。
Round 2(反論・追加意見)では、互いの意見を踏まえて立場が交差します。事業責任者はCFOの数字を引用しながら「だからこそスピードが重要」と押し、CHROはCTOのセキュリティ懸念に乗っかりながら「だから非エンジニアは対象外にすべき」と絞り込みを提案します。
最後にオーケストレーターが合意形成を行い、最終提案を出します。
■ 提案概要
エンジニア200名を対象に、エンタープライズプランを用いて6ヶ月間のパイロット導入を実施。生産性指標(PR速度・コードレビュー時間)を定量測定し、継続・拡大・中止の判断基準を事前に設定する。
■ 推奨アクション
- CTO主導でデータ処理契約とセキュリティ要件を1ヶ月以内に確認(山田)
- CFO主導でROI測定指標と閾値を設計(田中)
- CHRO主導でスキル評価制度の見直しを並行実施(鈴木)
そして全員が投票します。結果は「全員条件付き賛成」でした。
作ってみてわかった、AIマルチエージェントの本質的な価値
正直、議論の内容は「人間の役員が議論したらこうなるよね」という範囲を大きく超えませんでした。CFOは財務を語り、CHROは人を語り、CTOは技術を語る。そこに驚きはありません。
でも、使い続けてわかった本当の価値は別のところにありました。
1. 提案の穴が事前にわかる
自分が作った提案をAI役員に投げると、財務・組織・技術・市場の4方向から一斉に突っ込みが入ります。「この懸念、人間の会議で絶対に指摘される」という論点が事前に洗い出せるので、提案の精度が上がります。本番前のリハーサルとして使えます。
2. 視点の抜け漏れがなくなる
人間が一人で考えると、どうしても得意な方向に偏ります。AIエージェントは役割に忠実で、空気も読まないため、「それ言いにくいけど本当はリスクだよな」という視点が毎回ちゃんと出てきます。
3. 叩き台の質が上がる
人に見せる前に、AIに一度回しておく。そうすると「この懸念はすでに検討済み」「この論点は未解決」という地図ができます。提案を持ち込む前の準備の密度が変わります。
技術的な仕組みは意外とシンプル
実装はClaude Codeのサブスクリプションプランで行いました。APIキーの取得や課金設定は不要で、サブスク契約さえあればすぐに使い始められるのが大きなメリットです。ファイル構成はこんな感じです。
multi_agent_board/
├── main.py # 議題をターミナルで対話入力
├── agents/
│ ├── base_agent.py # speak / respond / vote の共通インターフェース
│ ├── cfo.py # 財務・ROI視点のシステムプロンプト
│ ├── chro.py # 組織・人材視点
│ ├── cto.py # 技術・セキュリティ視点
│ └── biz_head.py # 市場・競争視点
├── orchestrator/
│ ├── discussion.py # ラウンド管理・発言順制御
│ └── synthesizer.py # 意見統合・提案生成
├── memory/
│ ├── context.py # 発言履歴の管理
│ └── session.py # セッション保存・復元
└── output/ # 議事録(Markdown)・サマリー(JSON)を自動出力
各エージェントの「個性」は、システムプロンプトだけで実現しています。CFOには「ROI・キャッシュフローを最重視し、感情論を排し数字と根拠で述べる」と書き、CTOには「セキュリティとベンダーロックインを必ず確認する」と書く。それだけで、それらしい役員になります。
Claude Codeに「CMO(最高マーケティング責任者)を追加して」と頼めば、agents/cmo.py を数秒で生成してくれます。役員の追加コストがほぼゼロというのも、AIエージェントならではです。
ビジネスへの示唆:「AIは意思決定を代替しない、精度を上げる」
このシステムを使って一番感じたのは、「AIが提案を作ってくれる」のではなく、「AIが提案の弱点を先に教えてくれる」という感覚です。
最終的な判断や提案の方向性は人間が決めます。ただ、「論点を並べる」「立場ごとの懸念を洗い出す」「合意可能な条件を構造化する」という作業はAIが得意な領域になってきました。
何かを提案する前に、まずAIの役員会議に通してみる。そういう使い方が、2026年の現実解として広がっていくのではないかと思っています。
最後に
今回作ったシステムのコードはすべてClaude Codeを使って実装しました。ファイル構成の設計から、各エージェントのプロンプト設計、オーケストレーターのロジックまで、ほぼ対話形式で進めました。
「こういうシステムを作りたい」と伝えると、ファイル構成を提案してくれます。「動くデモから作りたい」と言えば、優先順位をつけて実装してくれます。「ファイルが足りない」と指摘すると、抜けていた全モジュールを補完してくれます。
AIとの共同開発は、すでにそういう水準に来ています。
次は、このシステムに実際の会議議事録を読み込ませて、「過去の自社の意思決定パターン」を学習させることを試してみたいと思っています。
この記事に登場したシステムは、Claude Codeのサブスクリプションプランで実装しています。APIキーや追加費用は不要で、Claude Codeがあれば同じ仕組みを自分でカスタマイズできます。

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